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朝顔

久しぶりに実家に帰ってみると、ちょっとしたものが妙に懐かしく感じられませんか?
勉強机、好きだった漫画、教科書―――。

ふと目についた卒業アルバムに手を伸ばし、そっと開いてみると。
懐かしい級友たちのあどけない笑顔が、学生服に包まれて花咲いている。
最高に楽しかった体育祭。苦手だった勉強。好きだったあの子。

思わず頬を緩めながら、貴方はどんどんページをめくっていきます。
そして、たどり着いた最後のページには、友人達の寄せ書きが。
「楽しかった!ありがとう!」「これからも友達でいよう!」
余白なんか無いくらい、ぎっしりと書き込まれたそれを、一つずつ読んでいく。

「……ん?」

その時、貴方は見覚えのない、一つの寄せ書きに目を奪われます。

『あさがお』

可愛らしい文字でたったそれだけ。

果たしていったいいつ、誰がこれを書いたのか。
『あさがお』が意味することとは。


全てを思い出すため、貴方はそっとその瞳を閉じるのです。





「…ちゃん、ゆうちゃん!ゆーちゃん!」

目を開けたオレの目の前には、おさななじみの朝花ちゃんの顔があった。

「ゆーちゃん!大丈夫??大丈夫ぅ??」

朝花ちゃんは黒い目にたっぷりとナミダをためてオレを見ている。
あぁ、オレは朝花ちゃんのボウシを取ろうとして、木から落ちたんだ。

「大丈夫。それよりごめん、ボウシ取れなくて。」

朝花ちゃんをおちつかせるために頭をなでて、ボウシの引っかかった木を見る。
けど朝花ちゃんは、オレを見て泣きながらにっこりわらって言う。

「いいの。ゆーちゃんがぶじだったから!」


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「優ちゃん!おはよ!」

「よう、朝花。」

後ろから走ってきた朝花に俺は目をやる。
小学校の時とは違う、ちょっとだけ大人になった気持ちにさせてくれる制服。
俺は学ランで、朝花はセーラー服を着ている。
小学校を卒業したばかりで、まだまだ顔つきが子供っぽい俺たち。
少し恥ずかしくて、お互いに似合わないって笑いあった。


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「優斗、待って!」

「朝花早くしろよ!」

後、半年とちょっとしたら卒業で、入学式の時には着られていた制服を、しっかりと着て俺たちは学校へ向かう。

「優斗さぁ、高校どこ行くの?」

「バスケの強いとこ。」

「もう!学校名くらい言ってくれてもいいじゃない!」

俺たちは他愛無い会話をして学校へ向かう。
朝花は、俺の行く高校を最近やたら気にしてる。
どこに行ったって別にいいじゃんって俺は思うけど、女は違うのかな…?
まぁ、そんなことどうでもいいけどさ。


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「もう、中学生も終わりかぁ。」

「そーだねぇ。」

俺たちはクラスの片隅でアルバム片手に話していた。
クラスメイト達もそれぞれ、中学最後の話しに興じている

「そだ、アルバムになんか書いてよ。」

「しゃぁねぇなぁ。お前も書けよ?」

―――バスケがんばれよ!

他愛無い言葉を書いておく。
あんま、変なこと書くと後で見せられた時恥ずかしいし。

「ってか、優斗のほとんど書く隙間ないじゃん。」

「強引に書いとけって。」

朝花は、はーいと言って何か書いてる。

「はい、書けたよ。」

差し出されたアルバムを俺は受け取り、確認した。

「なんだよ、これ。」

書かれてた内容は思わず苦笑するものだった。

「ん?これから学校違うし、そう書いとけば大人になって開いたら一番初めに思い出してもらえそうだし!」

「んだよそれ…」

俺はちょっとあきれて朝花を見た。
朝花は悪びれた様子もなく、ニヤリと笑う。

「だって、優斗だよ?そう言ったのってさ。」

「そうだっけ?」

「そうなの!」

まさかあの事、覚えてたなんてな…


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「……そうか。これ、あいつが書いたのか。」

俺は苦笑しながら、『あさがお』の字を指先でなぞる。
ものすごく、この字が愛おしい。
忘れるわけないのに、覚えててほしいっていうあいつの思いが詰まっているから…。

「優斗、何してんの?」

ひょっこりと顔を出す、彼女の顔を見る。

「お前も変わったよな。」

俺はポツリと呟く。

「はぁ?何言ってん…って、それぇ!!」

「懐かしくてつい眺めてた。」

彼女は顔を赤らめながら俺を睨む。

「眺めてんじゃないわよ。……寄せ書き、見た?」

俺は極上の笑顔で答える。

「もちろん。」

彼女は真っ赤になりながら、俺を睨んで「バカ」小さな声で言う。

「まぁ、お前の言ってたとおりになったよ、朝花。」

俺はニヤリと笑って言う。
朝花は「でしょ?」と言い、笑って俺を見る。

「そんなことより、お義母かあさんが外にご飯食べに行こうってさ。」

「ん、分かった。」

朝花はさっさとリビングに下りていったが、俺はかつての自分の部屋を見直す。
俺が使わなくなってから、物置同然にされている部屋。
だけど、たまに帰って部屋の整理をするのもいいもんだな…。

あぁ、思い出した。
朝花が『あさがお』って書いた理由わけ


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「ボウシ、本当に良いの?」

「うん。ゆーちゃんがまた木からおちたら、いやだから。」

まだ、泣いてる朝花ちゃんを泣き止ませるために、オレはわらって言う。

「朝花ちゃんの名前って、あさがおみたいだよね。」

「なんで?」

「だって、かんじで書いたら、朝に花でしょ?」

「うん。」

「あさがおの花は、朝にしかさかないから。」

「…だから、わたしの名前はあさがおみたいなの?」

「うん!あと、もうひとつ、りゆうがあるんだ。」

「なに?」

「朝花ちゃん、笑ったら花と、朝日みたいだから!」

「ふふ、ゆーちゃん、よくわかんないよぅ」

朝花ちゃんはまだ泣いてたけどオレを見て、てれたみたいにわらった。
いつもの、朝日と花みたいじゃなかったけど…
でも、いいんだっ



A morning glory.
 −Your smile to me...


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